最初のカフェデート……だと俺は思っている……の日に、優花は言った。

「彼氏はいたことがないから、男性と二人でいる時のマナーがわからず……申し訳ないです」

彼女は、申し訳ないと言った。
けれど、俺にとっては、それが嬉しかった。
初めての男が俺でありたいと、熱が身体中に広がった。
でも、どうすれば彼女の初めての男になれるのかという、難題が同時に降りかかってきた。

これまで俺が関わってきた女性であれば、恋愛関係に関する何かしらのワードを自分たちから匂わせてきた。

「ねえ、彼女にするならどんなタイプ?」
「恋人とも、こんな風に過ごすの?」

などと、間接的に聞いてくるケースが多かったが中には

「私が恋人になるって考えたことないの?」

などと、直接的に聞いてくる女性もいた。
こういう場合は、相手の自分への気持ちが明らかなので、どうこの好意を無くしてもらおうか……を考えるだけで済んだ。
しかし彼女については一向に、そういう匂わせはしてこない。メッセージでのやり取りでも、すでに感じていたが、彼女は傾聴が上手い。
ただ頷くだけではない。
良いタイミングで頷いたり、欲しいと思う返答を返してくれる。
彼女との会話はとても気持ちが良い。
内容は、俺の好きな映画や本の話が中心。
話しやすい内容だったから……とも言えるかもしれない。
だけどそれだけではない。
優花の返答を聞くのもまた、心地よい。
だから、もっと俺は話題を作ろうと頭を捻る。
そして彼女の声を、言葉を受け止める。
このキャッチボールを、もし許されるならずっと続けたいと思うほど、俺はこの時間を楽しんでいた。

だからこそ、俺は焦りもした。