こうして始まった優花との交流で、俺は気づいてしまった。
こんなに、何も考えずに会話が続いたことがあっただろうか。
こんなにも、誰かと一緒にいることで気持ちが楽になったことがあっただろうか……と。

メッセージのやり取りは、今までであれば

「どう言う風に返信をすれば、もうこのやり取りを終わらせることができるのだろう」

と、まるで将棋やチェスをしているように二歩先、三歩先を考えて言葉を組み立てなくてはいけなかった。

そして、女性と二人きりで会うというシチュエーションでも、今までとは違うと感じた。
これまで、彼女達は一目で高級ブランドと分かるものを、これ見よがしに身につけて、俺の横に立とうとしてきた。
彼女達が外見を造るほど、俺もまた、同じレベルで造るように言葉のない圧力を、女性達から感じることも少なくなかった。

「ねえ、あなたの隣に相応しいのは私よ」
「だからあなたも、私に相応しい人になってね」

彼女達は自分の理想の関係性を俺に求め、俺に支配されたがるフリをして、俺を支配しようとしていた。

そんな事が繰り返されてきたので、俺にとって女性と何かを一緒にすることは、自分をロボットのように改造し、防御をする必要があるものだと、常に考えてきた。

だけど優花は違った。
彼女とのメッセージは、頻度も内容も温度感が心地よかった。
送りすぎず、受け取りすぎず、ちょうど良いやり取り。
でも、心の中では、あと1回だけ……と、メッセージのおかわりを求めることは毎回だった。
彼女とカフェで会った時も、彼女が自然体でいてくれたおかげで俺も気楽な気持ちでいることができた。
普段だったら

(2時間以内で帰るには、この話が出たらタイミングよく会話を打ち切って帰宅を促そう)

と、予め決めていく。
でも彼女と会っている時は、そんな考えにはならなかった。
それどころか、このまま返すのが惜しいと思ってしまい、逆に

(もっと長引かせたい、帰りたいと言わせたくない)

と、必死になった。
自分史上最も饒舌であろうと努力をしていた日でもあった。
そして優花は……どんな話を俺が振っても、ニコニコと楽しそうに受け入れてくれた。


他人といるということは、俺にとっては間違いなくストレスフルなこと。
だから、ありのままの自分を人のそばにいることが、こんなに楽だなんて知らなかった。

(彼女を、手放したくない)

こんな欲が芽生えるのに、ほとんど時間はかからなかった。