「私なんかが、氷室さんのような方のお役に立てたのならすごく嬉しいです」

無理矢理、あの婚活会場から連れ出したこと。
その理由が、俺自身の問題もあったこと。
それらを謝罪した時に真っ先に優花はこう言った。

「このクリームソーダ2つある様子、写真撮りたいんですよ」
「でも、私さすがに2つは飲めないかなと……」
「なので、よければ1つ、貰ってくれませんか?」

この優花の問いかけには、驚いた。
直前に俺がクリームソーダのメニューを見ていたのを、優花は見ていた。確かに。
そして俺がブラックコーヒーを頼んだ時、一瞬怪訝な顔をしてもいたから、きっと優花はこう思ったのだろう。

(何故、クリームソーダを選ばないんだろうか?)

と。
それならば、聞けば良いだけだ。
でも、そうだとしたら、俺はこう答えたかもしれない。

「ただ、見ていただけですから」

優花も、俺がクリームソーダを選ぶということに違和感を覚えたから、メニューを見ていたことを覚えていたのだろう。
その違和感が、彼女に変な印象を与えてしまうくらいなら、一般的に良いと言われる自分の印象を守ることを優先しよう。
俺はきっと、瞬時にそう考えるだろうから。

だけど、彼女のこの聞き方は違った。
まるで、彼女の頼みを、俺が聞いたという形になる。
俺は、こうして気になっていたクリームソーダを直接目にすることができるのだ。
彼女のために、という名目で。

これが、彼女なりの俺への気遣いなのかは分からない。
ただ、もし本当に俺を気遣っての言葉だったとしたら。

(彼女は、他の人とは違う……!)

この時の俺は、クリームソーダの写真を真剣にスマホで撮影しようと頑張っている優花を見つめながら、もっと彼女と仲良くなってみたいという欲が芽生えていた。