「氷室さんのようなクールな人は、甘いものより、ブラックコーヒーのような大人の味のものがよく似合いますよ」

と。
それは確か、バレンタインで貰ったチョコレートをおやつとして食べようとした時だったろうか、言われたのは。

「氷室のクールさは、宝だからな。イメージ壊すようなことして、番組を潰す真似だけはしてくれるなよ」
橘にも言われた。
それは、控室に置かれていたクッキーを食べようとしていた時だったろうか。

それから、女性と2人きりで食事をする機会も少なくなかったが、決まって彼女たちに言われたのも

「クールな氷室さん素敵」

だった。
外見から来るのか、俺が普段話している口調から来るのかは分からないが、お前はこうだから、と気がつけば周囲から印象を決められ、従わされていた。

こうあるべきだ。
そこからずれれば、お前なんか価値がない。
選ばれるわけがない。誰にも。
これらの言葉が、心の中に彫られた。
消そうとしても、生涯塞ぐことができない傷を新たに作る刺青のように。

でもそんな俺の心に、ふわっと柔らかいカバーをかけてくれたのが、優花だった。