「体調が悪いなら、俺に言ってくださいと……朝言ったじゃないですか。何故黙ってたんですか?」
「氷室さん……」
「俺は、医師です。でもエスパーじゃない。あなたに訴えてもらわないと、俺は診断することもできない」

そう訴えかけてくる氷室さんの熱い眼差しに、私は本音を隠しきれなくなった。

「……嘘です」
「え?」
「体調が悪いなんて、嘘です」
「何故、そんな嘘を……」
「私みたいな……おばさんで、デブで……おしゃれのセンスもなくて、氷室さんに気の利いたこと1つ言えない私なんかが、氷室さんとこんな場所にいるのが、なんだか申し訳なくて……」

氷室さんは、黙って私の話を聞いていた。

「ごめんなさい。1人で、家に帰してください。これ以上情けない顔、見られたくないです……お願いします……」

そう言ったところで、氷室さんが私の頬に手をあてて、何かを拭った。
氷室さんの手に水らしきものがついたのを見て、私は自分が泣いているのだと気付かされた。

「言いたいことは、それだけですか?」
「え?」

氷室さんはそう言うと、その場で手をあげた。
タクシーが止まった。
扉が開くと、私は氷室さんによって、中に押し込められて、その後に続いて氷室さんも乗り込んだ。

「すみません、今から言う場所に向かってもらってもいいですか?」

氷室さんはスマホを取り出すと、川越から始まる住所を言った。