「氷室さん、どうして……」

氷室さんは、息を切らせながら

「体調……悪いって言うなら……俺がいたほうがいいでしょう」

と言った。急いで走ってきたのが分かる程、浴衣ははだけていた。

「大丈夫です……1人で、帰れますから……」

掴まれてる手を振り払おうとするが、ぴくりとも動かない。

「俺が送ります。送らせてください」

そう言うと、氷室さんは私の手を掴み、人混みを縫うように歩き始める。

「痛いっ……!!」

私の足は、すでに限界に来ていた。
綺麗な模様の鼻緒は、今や私の足を痛めつける凶器に変わっていた。
氷室さんは、私の声で事態を察したのか、懐から絆創膏を取り出し

「な、何してるんですか!?」

その場で跪き、私の足にできている傷の上に、絆創膏を数枚貼った。
私の足の甲に、氷室さんの指先が当たるたびに、何だか変な気持ちになってしまった。

「これでどうですか?」

氷室さんは、跪いたまま私を見上げた。
その態勢が、まるでシンデレラで求婚する王子様のように見えるからか、周囲から黄色い歓声が聞こえてきた。

「氷室さん、大丈夫ですから、もう立ってください!」

私は氷室さんの手を今度は自分から掴み、引っ張り上げた。
そして手を離そうとするが、逆に氷室さんに掴み返されてしまう。

「言いましたよね、特別な日にすると」

氷室さんの目に、微かな怒りを感じた。