目の前にいた女の子が、ヨーヨーすくいと同じようなやり方で、真っ赤な鯛を釣っていた。
その横で、彼氏らしき男の子が女の子の写真を撮ってあげていたのが、とても微笑ましかった。

「釣るおみくじ、面白いですね。森山さんやります?」
「そうですね」

私も空いてる釣竿を手にして、赤い鯛を釣ろうと糸をたらした。
その時、ふと、その横にピンクの鯛がたくさん置かれている台があるのを見つけた。

(SNS映えしそうだな)

近づいてみると、ピンクの鯛は恋みくじと、書いてあった。

(私なんかが釣るとか……ギャグにしかならないな)

やっぱり赤い、普通のおみくじの鯛を釣ろうと釣り糸を垂らしたところ、氷室さんが私の肩を叩いてきた。

「森山さん、はいこれ」

氷室さんは、私にピンクの鯛を渡した。

「ど、どうして……」
「欲しそうな顔をしていた気がしたので」
「私、そんな顔してましたか!?」
「少なくとも、先ほど食べたさつまいものお菓子を見る時の顔と、同じ顔をしていました」

(その時と同じ顔って……どんだけ物欲しそうにしていたんだ私は……!)

私が無言で考えていると、氷室さんが急に

「すみません」

と謝ってきた。

「え?」

(どうして謝るんだろう?)

「俺、失念してましたが……自分で選ばないとおみくじになりませんよね」

(言われてみればそうだ)

「戻しますね」
「待ってください」

氷室さんが、手の中にいるピンクの鯛を戻そうとしたのを、私は止めた。

「これに、します」
「……ご自分で選ばなくて良いんですか?」
「これを、選んだんです」

私はそのまま氷室さんの手から、ピンクの鯛を選び、中のおみくじを開けてみた。

【未来に幸福あり】

おみくじに書かれていた言葉に、心が踊った。

(そうだ、氷室さんにお礼を言わなきゃ)

私は顔を上げると、そこにいたはずの氷室さんが居なくなっていた。

(あれ、どこにいるんだろう?)

周囲を探すと、すぐに氷室さんを見つけることができた。
何故なら、浴衣を着た美人な女の子達数名に囲まれて、境内の中でより目立っていたから。