「何で、こんなところに連れてこられたんでしょうか?」

私の問いに、氷室さんはパンケーキを一口頬張って、それはそれは美味しそうに咀嚼してからこう言った。

「奢っていただけると、おっしゃったので」
「確かにそうは言いましたけど……」

(こんなオシャレなデートスポットに来る事になるなんて……完全に想定外……)

最初想像していたのは、せいぜいファミレスの定食くらいだった。

「……森山さん」
「え!?どうして私の名前を……?」
「あ……失礼……。森山さん……というお名前ではなかったですか?」
「いえ……合って……けど……何で……?」
「さっき、呼ばれていたので」

(ああ……佐野さんか……)

「森山さん。体はどうですか」
「あ……もう大丈夫です」
「そうですか。良かった」

氷室さんのパンケーキの皿は、あっという間に空になっていた。

「助けていただいて、ありがとうございました。それから、忠告を守らずご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

やはり体調が悪くなったと、エントランスで佐野さんに会った時にちゃんと言っておけば、こんな騒ぎを起こさずに済んだのではないかと、後悔をした。
ところが。

「……助けられたのは俺の方です」
「……え?」

氷室さんの口から、意外な言葉が飛び出した。