話は、ほんの1時間ほど前のこと。
「……すみません……いつまで手を……」
タワマンのエントランスに再び戻ってきたタイミングで、私は恐る恐る氷室さんに声をかけた。
「あ……」
氷室さんは、今気が付いたらしく
「申し訳ありません」
と、すぐに私の手を解放した。
「いっ、いいえ……それは良いんです……」
そんなことは、正直問題ではない。
「何で私……会場から連れ出されたんでしょうか?」
「あなたこそ、何故あんな場所にいたんですか?」
「……は?」
「私は、ここで休んでから家に帰るようにお伝えしたはずですが」
「あ、はい。それは言われました。けれど……」
あの後すぐ佐野さんに捕まって、ずるずるあの婚活の場に連れて行かれた。
この時もらった飲み物は、まだ飲んでいなかった。
「いいですか?あなたは今、熱中症の中等度の一歩手前なんですよ」
「中等度……ですか?」
「病院搬送の一歩手前、ということです」
「私……そんなに悪い状態なんですか?」
「めまいと顔のほてり、体のだるさにお心あたりは?」
「え?」
確かにさっき、めまいはあった。
しかしそれは、佐野さんからの精神的プレッシャーのせいだと思っていた。
「さらに、あなたのその汗のかき方」
「あ、汗?」
汗をかくことは、いつものこと。
特に今日は、佐野さんが真横から離れてくれなかったので、臭わないようにとちょっと汗をかいたなと思ったらすぐにハンドタオルで拭くようにはしていた。
いつまで経っても汗引かないなー……くらいには思ってはいたけれど……。
「さっきからあなたは、顔のあせをひっきりなしに拭いているが、その汗が引く様子はない」
「え!?」
「以上のことから、あなたは熱中症の中等度一歩手前の軽度状態であると推察いたしました」
「それで、私を連れ出した……と?」
「はい。あのままだと、救急車を呼ばなくてはいけない状態になると診断しました」
「診断……」
(そうか、それでか。いきなり顔を触ってきたのは)
「そうだったんですね。ありがとうございます。そうしましたら……」
私は、氷室さんに貰った飲み物を見せながら
「これを飲んで、少し休んだら戻ることにします。氷室さんは先に戻ってください」
と、婚活会場に戻ることを促した。
でなければ、佐野さんに後々自分が何をされるか、わからないから。
(あ、そうだ、今なら……)
私は、急いで財布を取り出した。
「さっき私の汗でスーツを汚した分と飲み物代をお支払いします」
「いえ、そう言ったものは結構です」
「そうは参りません。しっかりお支払いさせてください」
(むしろ診察費もお支払いするべきだと思うし)
私は急いで1万円を取り出して。氷室さんに渡そうとした、その時だった。
「森山さーん!!!」
(げっ……!!)
エレベーターホールの方から、明らかに怒りが滲み出ている佐野さんの甲高い声が聞こえてくる。
(まずい、本当にこの人を早く婚活会場に戻さないと……)
「あ、あのぉ……私の……友達……がすっごい美人なんですけど、その……氷室さんのこと……すごく気になるって言ってて……だから会場に戻っていただければと……とても良いことが起こると思います……!」
(……説明下手か……!私……)
「森山さん!?いるの!?いないの!?返事しなさい!!!」
(……まずい……超機嫌悪い……)
氷室さんと佐野さんが、せめてこの後連絡先でも交換してくれたら、一気に佐野さんのご機嫌が取れるかもしれない……。
私はとにかく、氷室さんに婚活の会場に戻って欲しいと思っていた。なので、1万円を、無理矢理氷室さんの手に握らせながら
「どうぞ戻ってください!」
と言った。口調が荒くなってしまったのは、発した後で気づいてしまったが、もう今更後には引けない、と思った。
しかし、氷室さんは
「いえ、戻るつもりはありません」
「え?」
「このまま帰ります」
(は!?あの!ちょっと待って!!)
「あと、この1万円はいただけません。お返しします」
と、私が持っているバッグに1万円を入れた。
そして
「それでは、お大事に……」
と、氷室さんは颯爽と去ろうとしていた。
(え?やだ、どうしよう……!!)
一瞬の時間で、しかしものすごく深〜く考えた結果、私は氷室さんのスーツの裾をがっちり掴んだ。
「お礼は、何としてもさせていただきます!!!お好きなもの、奢ります……!!!!だから……!もう少しお時間ください……!」
(私の、明日からの平穏のために……!!!)話は、ほんの1時間ほど前のこと。
「……すみません……いつまで手を……」
タワマンのエントランスに再び戻ってきたタイミングで、私は恐る恐る氷室さんに声をかけた。
「あ……」
氷室さんは、今気が付いたらしく
「申し訳ありません」
と、すぐに私の手を解放した。
「いっ、いいえ……それは良いんです……」
そんなことは、正直問題ではない。
「何で私……会場から連れ出されたんでしょうか?」
「あなたこそ、何故あんな場所にいたんですか?」
「……は?」
「私は、ここで休んでから家に帰るようにお伝えしたはずですが」
「あ、はい。それは言われました。けれど……」
あの後すぐ佐野さんに捕まって、ずるずるあの婚活の場に連れて行かれた。
この時もらった飲み物は、まだ飲んでいなかった。
「いいですか?あなたは今、熱中症の中等度の一歩手前なんですよ」
「中等度……ですか?」
「病院搬送の一歩手前、ということです」
「私……そんなに悪い状態なんですか?」
「めまいと顔のほてり、体のだるさにお心あたりは?」
「え?」
確かにさっき、めまいはあった。
しかしそれは、佐野さんからの精神的プレッシャーのせいだと思っていた。
「さらに、あなたのその汗のかき方」
「あ、汗?」
汗をかくことは、いつものこと。
特に今日は、佐野さんが真横から離れてくれなかったので、臭わないようにとちょっと汗をかいたなと思ったらすぐにハンドタオルで拭くようにはしていた。
いつまで経っても汗引かないなー……くらいには思ってはいたけれど……。
「さっきからあなたは、顔のあせをひっきりなしに拭いているが、その汗が引く様子はない」
「え!?」
「以上のことから、あなたは熱中症の中等度一歩手前の軽度状態であると推察いたしました」
「それで、私を連れ出した……と?」
「はい。あのままだと、救急車を呼ばなくてはいけない状態になると診断しました」
「診断……」
(そうか、それでか。いきなり顔を触ってきたのは)
「そうだったんですね。ありがとうございます。そうしましたら……」
私は、氷室さんに貰った飲み物を見せながら
「これを飲んで、少し休んだら戻ることにします。氷室さんは先に戻ってください」
と、婚活会場に戻ることを促した。
でなければ、佐野さんに後々自分が何をされるか、わからないから。
(あ、そうだ、今なら……)
私は、急いで財布を取り出した。
「さっき私の汗でスーツを汚した分と飲み物代をお支払いします」
「いえ、そう言ったものは結構です」
「そうは参りません。しっかりお支払いさせてください」
(むしろ診察費もお支払いするべきだと思うし)
私は急いで1万円を取り出して。氷室さんに渡そうとした、その時だった。
「森山さーん!!!」
(げっ……!!)
エレベーターホールの方から、明らかに怒りが滲み出ている佐野さんの甲高い声が聞こえてくる。
(まずい、本当にこの人を早く婚活会場に戻さないと……)
「あ、あのぉ……私の……友達……がすっごい美人なんですけど、その……氷室さんのこと……すごく気になるって言ってて……だから会場に戻っていただければと……とても良いことが起こると思います……!」
(……説明下手か……!私……)
「森山さん!?いるの!?いないの!?返事しなさい!!!」
(……まずい……超機嫌悪い……)
氷室さんと佐野さんが、せめてこの後連絡先でも交換してくれたら、一気に佐野さんのご機嫌が取れるかもしれない……。
私はとにかく、氷室さんに婚活の会場に戻って欲しいと思っていた。なので、1万円を、無理矢理氷室さんの手に握らせながら
「どうぞ戻ってください!」
と言った。口調が荒くなってしまったのは、発した後で気づいてしまったが、もう今更後には引けない、と思った。
しかし、氷室さんは
「いえ、戻るつもりはありません」
「え?」
「このまま帰ります」
(は!?あの!ちょっと待って!!)
「あと、この1万円はいただけません。お返しします」
と、私が持っているバッグに1万円を入れた。
そして
「それでは、お大事に……」
と、氷室さんは颯爽と去ろうとしていた。
(え?やだ、どうしよう……!!)
一瞬の時間で、しかしものすごく深〜く考えた結果、私は氷室さんのスーツの裾をがっちり掴んだ。
「お礼は、何としてもさせていただきます!!!お好きなもの、奢ります……!!!!だから……!もう少しお時間ください……!」
(私の、明日からの平穏のために……!!!)
「……すみません……いつまで手を……」
タワマンのエントランスに再び戻ってきたタイミングで、私は恐る恐る氷室さんに声をかけた。
「あ……」
氷室さんは、今気が付いたらしく
「申し訳ありません」
と、すぐに私の手を解放した。
「いっ、いいえ……それは良いんです……」
そんなことは、正直問題ではない。
「何で私……会場から連れ出されたんでしょうか?」
「あなたこそ、何故あんな場所にいたんですか?」
「……は?」
「私は、ここで休んでから家に帰るようにお伝えしたはずですが」
「あ、はい。それは言われました。けれど……」
あの後すぐ佐野さんに捕まって、ずるずるあの婚活の場に連れて行かれた。
この時もらった飲み物は、まだ飲んでいなかった。
「いいですか?あなたは今、熱中症の中等度の一歩手前なんですよ」
「中等度……ですか?」
「病院搬送の一歩手前、ということです」
「私……そんなに悪い状態なんですか?」
「めまいと顔のほてり、体のだるさにお心あたりは?」
「え?」
確かにさっき、めまいはあった。
しかしそれは、佐野さんからの精神的プレッシャーのせいだと思っていた。
「さらに、あなたのその汗のかき方」
「あ、汗?」
汗をかくことは、いつものこと。
特に今日は、佐野さんが真横から離れてくれなかったので、臭わないようにとちょっと汗をかいたなと思ったらすぐにハンドタオルで拭くようにはしていた。
いつまで経っても汗引かないなー……くらいには思ってはいたけれど……。
「さっきからあなたは、顔のあせをひっきりなしに拭いているが、その汗が引く様子はない」
「え!?」
「以上のことから、あなたは熱中症の中等度一歩手前の軽度状態であると推察いたしました」
「それで、私を連れ出した……と?」
「はい。あのままだと、救急車を呼ばなくてはいけない状態になると診断しました」
「診断……」
(そうか、それでか。いきなり顔を触ってきたのは)
「そうだったんですね。ありがとうございます。そうしましたら……」
私は、氷室さんに貰った飲み物を見せながら
「これを飲んで、少し休んだら戻ることにします。氷室さんは先に戻ってください」
と、婚活会場に戻ることを促した。
でなければ、佐野さんに後々自分が何をされるか、わからないから。
(あ、そうだ、今なら……)
私は、急いで財布を取り出した。
「さっき私の汗でスーツを汚した分と飲み物代をお支払いします」
「いえ、そう言ったものは結構です」
「そうは参りません。しっかりお支払いさせてください」
(むしろ診察費もお支払いするべきだと思うし)
私は急いで1万円を取り出して。氷室さんに渡そうとした、その時だった。
「森山さーん!!!」
(げっ……!!)
エレベーターホールの方から、明らかに怒りが滲み出ている佐野さんの甲高い声が聞こえてくる。
(まずい、本当にこの人を早く婚活会場に戻さないと……)
「あ、あのぉ……私の……友達……がすっごい美人なんですけど、その……氷室さんのこと……すごく気になるって言ってて……だから会場に戻っていただければと……とても良いことが起こると思います……!」
(……説明下手か……!私……)
「森山さん!?いるの!?いないの!?返事しなさい!!!」
(……まずい……超機嫌悪い……)
氷室さんと佐野さんが、せめてこの後連絡先でも交換してくれたら、一気に佐野さんのご機嫌が取れるかもしれない……。
私はとにかく、氷室さんに婚活の会場に戻って欲しいと思っていた。なので、1万円を、無理矢理氷室さんの手に握らせながら
「どうぞ戻ってください!」
と言った。口調が荒くなってしまったのは、発した後で気づいてしまったが、もう今更後には引けない、と思った。
しかし、氷室さんは
「いえ、戻るつもりはありません」
「え?」
「このまま帰ります」
(は!?あの!ちょっと待って!!)
「あと、この1万円はいただけません。お返しします」
と、私が持っているバッグに1万円を入れた。
そして
「それでは、お大事に……」
と、氷室さんは颯爽と去ろうとしていた。
(え?やだ、どうしよう……!!)
一瞬の時間で、しかしものすごく深〜く考えた結果、私は氷室さんのスーツの裾をがっちり掴んだ。
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「……すみません……いつまで手を……」
タワマンのエントランスに再び戻ってきたタイミングで、私は恐る恐る氷室さんに声をかけた。
「あ……」
氷室さんは、今気が付いたらしく
「申し訳ありません」
と、すぐに私の手を解放した。
「いっ、いいえ……それは良いんです……」
そんなことは、正直問題ではない。
「何で私……会場から連れ出されたんでしょうか?」
「あなたこそ、何故あんな場所にいたんですか?」
「……は?」
「私は、ここで休んでから家に帰るようにお伝えしたはずですが」
「あ、はい。それは言われました。けれど……」
あの後すぐ佐野さんに捕まって、ずるずるあの婚活の場に連れて行かれた。
この時もらった飲み物は、まだ飲んでいなかった。
「いいですか?あなたは今、熱中症の中等度の一歩手前なんですよ」
「中等度……ですか?」
「病院搬送の一歩手前、ということです」
「私……そんなに悪い状態なんですか?」
「めまいと顔のほてり、体のだるさにお心あたりは?」
「え?」
確かにさっき、めまいはあった。
しかしそれは、佐野さんからの精神的プレッシャーのせいだと思っていた。
「さらに、あなたのその汗のかき方」
「あ、汗?」
汗をかくことは、いつものこと。
特に今日は、佐野さんが真横から離れてくれなかったので、臭わないようにとちょっと汗をかいたなと思ったらすぐにハンドタオルで拭くようにはしていた。
いつまで経っても汗引かないなー……くらいには思ってはいたけれど……。
「さっきからあなたは、顔のあせをひっきりなしに拭いているが、その汗が引く様子はない」
「え!?」
「以上のことから、あなたは熱中症の中等度一歩手前の軽度状態であると推察いたしました」
「それで、私を連れ出した……と?」
「はい。あのままだと、救急車を呼ばなくてはいけない状態になると診断しました」
「診断……」
(そうか、それでか。いきなり顔を触ってきたのは)
「そうだったんですね。ありがとうございます。そうしましたら……」
私は、氷室さんに貰った飲み物を見せながら
「これを飲んで、少し休んだら戻ることにします。氷室さんは先に戻ってください」
と、婚活会場に戻ることを促した。
でなければ、佐野さんに後々自分が何をされるか、わからないから。
(あ、そうだ、今なら……)
私は、急いで財布を取り出した。
「さっき私の汗でスーツを汚した分と飲み物代をお支払いします」
「いえ、そう言ったものは結構です」
「そうは参りません。しっかりお支払いさせてください」
(むしろ診察費もお支払いするべきだと思うし)
私は急いで1万円を取り出して。氷室さんに渡そうとした、その時だった。
「森山さーん!!!」
(げっ……!!)
エレベーターホールの方から、明らかに怒りが滲み出ている佐野さんの甲高い声が聞こえてくる。
(まずい、本当にこの人を早く婚活会場に戻さないと……)
「あ、あのぉ……私の……友達……がすっごい美人なんですけど、その……氷室さんのこと……すごく気になるって言ってて……だから会場に戻っていただければと……とても良いことが起こると思います……!」
(……説明下手か……!私……)
「森山さん!?いるの!?いないの!?返事しなさい!!!」
(……まずい……超機嫌悪い……)
氷室さんと佐野さんが、せめてこの後連絡先でも交換してくれたら、一気に佐野さんのご機嫌が取れるかもしれない……。
私はとにかく、氷室さんに婚活の会場に戻って欲しいと思っていた。なので、1万円を、無理矢理氷室さんの手に握らせながら
「どうぞ戻ってください!」
と言った。口調が荒くなってしまったのは、発した後で気づいてしまったが、もう今更後には引けない、と思った。
しかし、氷室さんは
「いえ、戻るつもりはありません」
「え?」
「このまま帰ります」
(は!?あの!ちょっと待って!!)
「あと、この1万円はいただけません。お返しします」
と、私が持っているバッグに1万円を入れた。
そして
「それでは、お大事に……」
と、氷室さんは颯爽と去ろうとしていた。
(え?やだ、どうしよう……!!)
一瞬の時間で、しかしものすごく深〜く考えた結果、私は氷室さんのスーツの裾をがっちり掴んだ。
「お礼は、何としてもさせていただきます!!!お好きなもの、奢ります……!!!!だから……!もう少しお時間ください……!」
(私の、明日からの平穏のために……!!!)