【医師と出会う 婚活パーティー 14時半〜】

そう、立て看板には書かれていた。

(ま、まさか……)

すでに数人、エントランスに入っていく人とすれ違っていた。
男性はかっちりとしたジャケット姿の人もいれば、ビーチで過ごすようなラフな服装の人もいた。
一方女性は、美容院で整えてきたと明らかに分かるような髪型とメイク、そしてかつては読んでいた雑誌で見たことがある男性受けしやすいワンピース姿の人ばかり。
かつて、忘れようと思っていたあの日の記憶が鮮やかに蘇ってくる。

(どうしよう……帰りたい……)

佐野さんが、何故こんな場所に私を呼び出したのかの真意も、この時間までこない理由も、正確なことは分からない。
体感気温は35度。
すでに服はぐっしょりと濡れている。
黒い服だったおかげで汗は目立っていない。
しかし、エントランスがガラス窓になっており、自分の軽いメイクが、汗であっという間に取れているのが見えた。

スマホを急いで確認しても、佐野さんからの連絡は一切入っていない。
すでに時間は、14時15分。

今すぐ部屋に逃げ帰りたい。
早くシャワーを浴びてさっぱりしたい。
でも、もしこの後佐野さんが来て私がいないと分かったら……?

……何をされるか、正直あの人のことは分からない。
暑さもあり、考えがまとまらない。

くらり。
目眩がした。
暑さにやられたのだろう。
すでに、熱中症対策で買っていたペットボトルの水は空になっていた。

倒れる。
地面にぶつかる。
そう思った時だった。

ふんわりと、爽やかなシトラスの香りがした。
とんっと、背中が誰かにぶつかった。
この時のパターンは分かる。
ぶつかった人が、私の体重に耐えられず、一緒に地面に倒れて、平謝りしないといけないパターン。ヘタをすると骨折させるかもしれない。
ああ、どうしよう。
そう思っても自分ではコントロールできない。

(……あれ?)

びくともしない。
肩を掴まれ、支えられている。
予想もしなかった展開。

「大丈夫ですか」

たった一言で分かる。
低く、セクシーな声。
恐る恐る振り返る。
まず目に入ったのは、空色のネクタイと、桜の花がちょこんとついたネクタイピン。

次に目が入ったのは、清潔感漂う、上品なスーツと、スーツ越しに分かる、たくましい胸板。

そして見上げる。
その人は、涼しげな目に長いまつげ、高い鼻に整った唇を持っていた。
さあっと風が吹く度にたなびく、絹のような黒髪を持っていた。
そして逆光でも分かる、綺麗な肌をしていた。