「い、樹さんちょっと離れて……」

(今、絶対私汗臭いから!)

「嫌だ!」
「えっ……!?」
「優花……良かった見つかって……ほんとに……」
「樹さん……?」
「勝手に、どこか行ってしまわないで……」
「それはむしろ」

むしろ、それは樹さんの方ではないか、と、言いそうになった。

あなたがいつか、私なんかの元を去るだろう、と。
でもそれを言ってしまうことは、樹さんを傷つけることになるのかもしれないと……初めて今日、考えることができた。

私は、口にいる言葉を、ごくんと飲み込んだ。
それから、樹さんにこれまでもらった言葉を思い出した。

「俺は、森山さんが良いんだ。側に居させて欲しい」
「キスをしても、いいですか?」
「ただ、俺の側にいて欲しい」

色んな、嬉しいことを言ってくれた。
それに対して、私は何1つ、彼に言葉を返せていなかった。
いつも、受け取ってばかりいた。

私が、言われて嬉しかったことを、今、樹さんに返したいと思った。
それが、彼と付き合い始めてから私が、ちゃんと初めて選んだことだった。