そもそも、最初から私は、樹さんに過去の女性関係が1度も無かったなど、思っていない。
むしろ、あの、超絶ハイスペックを持つ人。
万が一童貞だと言われたら、医者でもない私でさえ……樹さんの体を心配してしまうだろう。

(だから、元カノとや、元奥さんとかいたとしても、驚くべきではない……)

頭の片隅では、ちゃんとその可能性は残していた。

「私のために、誰とも付き合わずにいてくれたのね」

などというセリフを吐けるのは、せいぜい10代がギリギリ。
私は、さらにそこから30年近く多く生きてきたから。

だからこそ、私は戸惑っていた。
先ほど聞かされた、隠し子の話だって……可能性は決して0ではなかったはず。
むしろ、氷室樹という素晴らしい男性の遺伝子が、この世に受け継がれていることに感謝する方が、世の中にとってはずっと価値があることではないか。
理性では、いくらでもそんな風に考えられるのに……心臓が掴まれるように痛かった。

そんなおこがましすぎる自分がいたことが、私はショックだった。