時間を気にせず、ただ太陽の下にいるだけ。
日が暮れたら帰って夕飯を食べて、部屋で朝が来るまで眠る。
結局ハワイにいる間の残りの約3週間は、同じことを繰り返すだけだった。
ワイキキの街や有名な観光地にも行かずに。
誰からも咎められずに。
ケビンが仕事でいない時は、マオと2人。
マオはいつも本を持ち歩き、もくもくと読み進めていた。
彼女が、英語も日本語も読めることに気がついたのは、帰国日の直前のこと。

「マオさんとケビンは、どうしてそんなに日本語が上手なんですか?」

帰国日の前々日に、俺はようやくこの質問をすることができた。

「ママが日本人だから」

このタイミングで、ようやくこの家に母親のポジションを背負う存在がいなかったことに気づいた。

「お母さんは、今どちらに?」
「天国」
「え?」

この時俺は、初めてケビンがハワイに帰国した理由が、奥さんの急な死が理由だったとマオから聞かされた。

それまでの自分は、とても他人に対してほとんど興味を持つことができなかったのだと、思い知った。