その日の朝、ナイフで刺されたという患者達が、次から次へと運ばれてきた。
現場が小学校の通学路ということもあり、被害者の多くは小学生の子供たちだった。

俺は、この事件でトリアージの責任者として、現場を回した。
誰もが皆、自分や自分の大事な人を助けて欲しいと、俺に懇願した。
しかし、俺はその声の全てに応えることはできなかった。
トリアージとは、あくまで医学的な判断でのみ行われるべきもの。感情は捨て去らなくてはいけないからだ。
そしてこの日のトリアージで、後に問題になったのは……自殺を図ったという犯人が重篤を意味する赤の判定をつけて、即治療させ、一方で犯人に刺された子供を黄色判定をつけて治療を待たせてしまったこと。
さらに、黒……治療不可能の判定をつけた子供もすでに複数いた。
トリアージのルールを考えれば、これは正しい選択だ。
きっとケビンも、そう言ってくれるだろう。

だが、俺はこの日、ミスをした。
犯人に赤判定をしたからではない。
たくさんの子供に黒判定をつけたからでもない。
ある子供に、黄色の判定をしたことだった。
実はその子供は、見た目では分からない、致命的な怪我を負っていた。
でも俺が黄色判定をしたことで、治療が遅れ、結果として命を落とすことになった。
もし、俺がその子供に赤判定をつけていれば……助けられたかもしれない命だった。