羽田空港の出発ロビーには、複数の時計台があり、よく待ち合わせに使われている。

優花に、メッセージで
「時計台で待っている」
と書いた文章と、時計台付近の写真を送ってから、
俺は、近くのベンチに座り……考えた。

優花が、どこに向かったのかは分からない。
顔を上げた時には、優花はすでに……消えていたから。
荷物と共に。

(このまま、もし帰ってしまったとしたら……?)

電車、バス、タクシーと、彼女が家に帰る手段はいくらでもある。
彼女には……俺から逃げる権利も、ある。

刻々と、時計台の針は進んでいく。
さっき人がいたはずの横も、いつのまにか空になっていた。
搭乗手続きをしなくてはいけないタイムリミットも、迫っている。

スマホを握る手に、力が籠った時だった。
スマホが、少し震えた。
メッセージの着信を意味する、バイブレーションだった。
おそるおそる、画面を見る。
メッセージの送信元は、優花だった。


心臓の鼓動が、大きくなった。