嫌な予感が、なかったとは言えない。
むしろ……いつこの時がくるのかと、心の何処かでは常に思っていた。

だから、空港で会った優花から、あの子の存在を口にされた時に真っ先に思ったのは

(この時が来たか……)

だった。
どうやって優花がこの事実を知ったのかを、問いかけることなどすっかり忘れてしまっていた。

分かっていたけれど。
覚悟をしていたつもりだったけれど。
いざこの時が来ると、全身が強張ってしまった。
言うべき言葉が、見つからなかった。

「……樹さん」

しばらく、俺が黙っていると、優花が口を開いた。
その声に、感情が乗っていない。

「……何……?」

やっとのことで、絞り出した2音だった。
でも、掠れてしまい、うまく伝わったかは……分からない。

「すみません……」

優花が、謝ってきた。
俺は……聞けなかった。
君は何に謝っているの?……と。

それから、また数十秒ほど無音の時が続いてから、優花はこう言った。

「……頭冷やしてきてもいいですか……?」

俺は、ただ頷くしか……できなかった。