ほんの少しだけ2人で眠った後に、下に降りた。
もうすっかり夜になっていたので、ご飯を一緒に食べようと、樹さんが言ったから。
ところが。

「あ、もう終わったんですか?」

休憩室として使っていると、樹さんが教えてくれたダイニングで、さっきお世話になった吉川さんという看護師さんが、座ってコーヒーを飲んでいた。

「吉川くん……まだいたのか……」

樹さんは、大きなため息をついた。

「いつも、こんなもんじゃないですか」
「それはそうだが……」
「安心してください。声までは聞こえませんでしたから」

看護師さんはそう言うと、私の方をチラと見る。
私は反射的に会釈をしてしまったが、看護師さんが言った言葉の意味に瞬時に気づいて、顔から火が吹き出そうになった。

「吉川くん!」

樹さんもそれに気づいたのだろう。
今にも殴りかかりそうな勢いだ。

「はいはい。邪魔者は帰りますよ」

看護師さんは、にんまり笑うと、樹さんの方に近づいて、何やら耳打ちをした。
瞬時に樹さんの顔がかっと赤くなったかと思うと

「じゃ、お邪魔しました〜」

と言いながら、飄々と看護師さんは立ち去っていった。
残された樹さんは、口元を抑えながら、顔が赤くなるのを抑えられずにいた。

「何を……言われたんですか?」

ちょっとした好奇心で聞いてみると、樹さんは聞こえるか聞こえないかの瀬戸際の声でこう言った。

「抱き心地良さそうな彼女で良かったですね……と……」
「抱き……心地……」

そのフレーズで、先ほどまで樹さんとしていた行為のことを思い出してしまい、私は膝から崩れ落ちるしかなかった。