それから、樹さんと私は、樹さんの香りが染み付いたベッドで互いの体温を感じ合った。
樹さんに、完全に素肌を晒すことになってしまうことへの恥ずかしさもあったが、それ以上に、樹さんの素手で私の皮膚に触れてもらえることの方に、喜びを感じてしまった。
樹さんの体温と香りを失くしたくないと、強く思ってしまった。

互いの体を愛する行為は、結局最後まではしなかった。
ハワイで、初めてを貰うという約束を守るためだと言って、樹さんが我慢してくれたから。

「そんなの守らなくても良い」

と私は言ったけれど、樹さんは譲らなかった。

(この人は、とても頑固な人なんだな……)

でも、そんなところも可愛いと思った。
好きだと思えた。

「好きだ」

と樹さんに言ってもらえるのが、何よりの幸せだった。


ふと、ベッドから樹さんの体越しに見えたものがあった。
空色のネクタイと、桜の花がちょこんとついたネクタイピン。
初めて、樹さんと出会った日に、樹さんが身につけていたものだと、すぐに分かった。

(あの日に、樹さんに出会わなかったらどうなってたんだろう?)

そんな風に、ぼんやり考えていると

「こっちに集中して」

と、樹さんがキスをしながら言ってきた。
私は返事の代わりに、樹さんのキスに応えた。

けれど。
それだけが、クローゼットの外に綺麗に飾られていた。
その意味を、もう少しちゃんと考えておけば良かったと……私は後に深く後悔することになることに、まだ気づけなかった。


きちんと、気づくべきだった。
ヒントは、樹さん自身が残してくれていたのだから。