樹さんの唇が離れたと同時に、樹さんの両手に、私の手が包み込まれた。
そして……驚いてしまった。
彼の手が、微かに震えていたことに。

「俺はまだ……君に言えてないことがある」
「え……?」
「だから……君が嘘をついたことを責める権利は……俺にはないんだ」
「ど、どういうことですか?」

樹さんは、何かを私に隠しているらしい。
そしてそのことに、罪悪感を感じている。
それは、何となく分かったのだけれど。

「今はまだ……言う勇気がない」

と、樹さんは言う。
隠し事をされたという事実は確かにショックではある。
だけど、隠し事をしたいという人の気持ちは、よく分かる。
だから私は、こう答える。

「無理して言う必要は、ないと思います」

と。
これは、私の本心だ。
でも樹さんは、首を横に振ってから

「他の誰に言わなかったとしても、君にだけはいつか……話さないといけないことなんだ……」

その言い回しが、とても気に掛かった。

「私にだけ……ですか?」
「そうだ」

樹さんは、私の手をより強い力で握ってくる。

「このことを話せば、君が俺の前から消えてしまうかもしれないって……俺の方がずっと怯えているんだ」
「そんな訳な」

いと、私が言おうとすると、

「頼むから、俺をちゃんと君の世界に入れてくれ」

と懇願された。