「そんなわけないじゃないですか」
「優花」
「樹さん、やっぱりかっこいいし、どんな女性だって彼女にできるのに」
「優花、ねえ話を聞いて」
「やっぱりダメです」
「落ち着いて」
「私なんかじゃ、樹さんには釣り合わない!」
「優花!!」

樹さんは、私の頭を樹さんの胸に埋めさせた。
樹さんの香りが、私の冷静さを取り戻してくれた。

「ご、ごめんなさい……私また……」

どうして、この人の前だとこんなに理性が効かないのか。
もうすぐ40歳だというのに。
情けない。本当に。
私は、涙と鼻水で樹さんの服を濡らさないように必死に俯いた。

「聞いて、俺の話を」

樹さんは、私の頭を1回撫でる。

「1人で、結論を出さないで」

樹さんは、私を再び強く抱きしめた。

「俺だって……不安だ」
「え?」
「君にだって、あるんだよ」
「何を……ですか?」

私が恐る恐る尋ねると、少しの間を空けて樹さんが言った。

「俺を、君が捨てる権利」