その言葉を言った瞬間、樹さんの腕の力が弱くなった。
思わず、私は振り向いてしまい、樹さんの表情を見てしまった。

(どうして、そんな顔をするの?)

樹さんは、ほとんど表情を変えない。
せいぜい眉間や口角がほんの少し動くだけ。
樹さんの言葉が、私に樹さんの感情を教えてくれていた。
そんな樹さんの表情が……目が……私に訴えかけてくる。
不安だと。
怖いと。
言葉にしなくても、私に伝わってしまった。

どうしよう。
何を、次に言えば良い?
樹さんは、私に何を求めている?
私は、何をするのが正解なの?
答えが、分からない。

「どうすればいいんですか……?」
「優花?」
「私は、あなたのために何をすればいいですか?」

ずっと聞きたかった。
聞かなくてはいけないと、思っていた。
でも……聞けなかった。

どうしてあなたは、私のことを好きだと言うのですか?
どういう私が、あなたに好きだと言ってもらえたのですか?
これからどうすれば、あなたの好きだと言い続けてもらえるんですか?

言葉をぶつけて、樹さんに気づかれるのが、怖かった。
私という人間が、樹さんにとって本当は何の価値もない人間だということに。

「……私なんかに、あなたの側にいる価値……あるんですか?」

私がそう言った時だった。

「ただ、俺の側にいて欲しい」

樹さんは、私の横幅に広い体を締め付けるように抱きしめてきた。

「それだけで……いいんだ……」

樹さんは、私の首筋に顔を埋めて、そう囁いた。