「行くな」

扉に手をかけた時、樹さんに背後から抱きしめられた。

「……離してください」
「嫌だ」
「離して!」
「ダメだ」

樹さんの、私を抱く腕の力が強くなった。
きっとそのせいだろう。
胸が、とても苦しい
声も、出てこない。
息が、止まりそう。

「優花………」

樹さんの声と息が、耳から伝わって体内に入ってくる。
少し前までは、聞くだけで幸せだと思った声。
だけど今は、切なくて少し怖い。
彼の口から何が出てくるか、分からないから。

それからすぐ。
彼が放った言葉は、私を戸惑わせた。

「君だけが不安だと、思わないで」