今まで、見た目で散々排除されてきた。
子供の頃から、職場選び、結婚相手探しに至るまで。
だから、見た目以外のところで必要とされたいと、必死に足掻いた。
その結果、仕事も趣味も順調にすることができた。
万が一ダメになったとしても、リカバリーする方法も、自力で手に入れた。
それだけのスキルを、しっかりと身に着けた。
それが、私。

でも、氷室樹という、私がかつて考えていた人生設計の中では到底考えられなかった奇跡とも言える存在に出会ってしまった。
何故か、好きだと言われてしまった。
付き合うことになってしまった。
そんなことは、もうとうの昔に諦めていたおとぎ話だと思っていた。

常に失うことを想定して、生きてきた。
そうすることで、自分の心を守ることができたから。

だから、氷室樹という存在に対しても、そう思わなくてはいけなかった。
いつ失っても良い存在だと、覚悟をしておかなくてはいけなかった。
そうしないと、私の心を守れなかったはずなのに。

でもいつしか、私はこの人を失いたくないと、思い始めた。
去ってしまうことを、恐れた。
それほどまでに、氷室樹に恋してしまった。
そんな自分がいるなんて、知らなかったし、知りたくなかった。
そして氷室樹への恋心を自覚する度に、鏡の中の自分に絶望した。

釣り合うわけない。
それに気づかれた時、きっと氷室樹は目の前から消えてしまうだろう。
私は確信していた。
皆は、そうだったから。

1人で生きることを楽しめる自分に戻れる自信がない。
だから、少しでも自分に絶望しなくて済むように、痩せたかった。
見た目だけでも、釣り合うようになりたかった。
だからこそ、頑張らせて欲しかった。
気づかないでいて欲しかった。

そんなことを、樹さんに伝わるか伝わらないかわからない、支離滅裂な言葉でぶちまけてしまった。

「せめて、気づかないフリをしていて欲しかった」

と私が言ったところで、ようやく我に返った。
しまった、と思った。
終わった、と思った。

「ごめんなさい、帰ります」

体の目眩は落ち着いていたけれど、この場所にいるのが耐えられなかった。
私は、急いで立ち上がり、部屋から出ようとした。
けれど……。