それから樹さんは、一向に泣き止めない私の手を引いて、2階へと連れて行った。
扉は全部で4つ。
その内2つは浴室とトイレだと、樹さんは教えてくれた。
それ以外の2つの扉の内の1つを樹さんが開けると、真っ白な医療の世界とはかけ離れた、茶色い木の壁と、大きなベッド、クローゼット、そして古くから使っているのが分かる机と椅子だけがそこにあった。
机の上には、写真立てが置かれていたが、それは伏せられている。

「座らせるよ」

樹さんは、私が頷くのを確認してから、私をベッドに座らせて、自分も横に座った。

(ここが、樹さんが普段生活している部屋なんだ……)

てっきり樹さんのようなハイスペックイケメンは、タワマンに住んでいるのではないか、と思っていた。
でも、樹さんらしいな……と思ってしまった。
樹さんは、私の肩を抱き寄せてから

「何を考えてるの?」

と聞いてきた。

「ここが樹さんが生きてる部屋なんだなと、思いました」
「つまらない部屋だと思った?」

私は、首を横に振った。

「そうか」

樹さんはそう言うと、より強く私の肩を抱きしめてくれてから

「ごめん、優花」

と言葉を繋げてきたので、私の止まっていたはず涙が、再び湧いて出てきてしまった。