「乗って」
「嫌です」

例え樹さんからの命令だとしても、これは断固拒否したい。

「どうして、体重計に乗らないといけないんですか?」

何が悲しくて、好きな人に自分のコンプレックスを曝け出さなくてはならないのだ……。
しかし、樹さんの鋭い眼差しは、私に無言の圧をかけてくるので、渋々乗った。
吐いた分だろうか。
朝体重を測った時より、200g程また減っていたので

「やった」

と小さく呟いたら、樹さんにギロリと睨まれてしまった。
佐野さんに睨まれるのとは訳が違う。
自分に好意があると、普段言ってくれてる人からの睨みだ。
怯まない方がおかしい。
私は、気持ちだけ、ハムスターにでもなったかのように縮こまってた。

「優花……聞いていい?」
「……どうぞ」
「……ちゃんと食事しろって……俺……言わなかったっけ?」
「……言いました」
「俺がこの間見せてもらった健康診断の結果から、10キロ近く体重が落ちている理由、説明してくれる?」
「それ……は……」

どう返事すればいいのだろう?
何で、樹さんはこんなにも、私が痩せることを反対するのだろう?
だって、女が好きな人のために綺麗になりたいって感情は、普通のことではないだろうか?
痩せることが綺麗になることだと、世間一般では思われているではないか。
だから芸能人とかは、みんな細くて綺麗な人ばかりではないか。

私は、10キロ近く痩せたから着れるようになった服があるというのに。
外に出たいと、思えるようになったというのに。
まだ自信を持って、樹さんの彼女とは言えないけれど、好きだと言ってくれる樹さんの気持ちに、素直に頷けるようになったのだ。
どう言えば良い?
どうすれば、樹さんにこの気持ち伝わる?

そんなことを、ぐるぐると考えていると、樹さんの指が私の目元に触れた。
樹さんの指が濡れているのを見て、私は自分が涙を流したことに気づいた。
そして、恐る恐る樹さんの顔を見てみると

「どうして泣くの……?」

と、樹さんの方がずっと泣きそうな表情をしていたので、私の涙腺は、一気に決壊してしまった。