「気分どうっすか?」

そう言われて、自分がついさっきまで吐き気と格闘していたことを思い出した。
でも、それは樹さんの車の中だった。

「あの……」
「何すか?」
「私と一緒に、男の人がいたはず……ですが……」

ふと、ここで嫌なことを考えた。
今日までの樹さんとの記憶は全部夢で、樹さんという人間は存在していなかったのでは……?
全部私が、ここで見ていた夢だったとしたら?
樹さんがいない世界が、私の正しい世界だったとして、私はその世界に戻ることができるのだろうか。

「男の……人……?」

吉川さんが、不思議そうな表情を浮かべて考え込んだので

「あ、いえ、大丈夫です!」

私に彼氏がいるなんて、私の妄想が見せた夢だったんだ……!
そんな妄想に、看護師の方に付き合わせるのは申し訳ない!

「すみません私、夢を見ていたみたいで」

と大声を出した時、またくらっと目眩がして、目頭を抑えた。

「大声出さないでください。貧血の症状あるんで」
「貧血……?」
「そうです。血圧も低いし」
「え?そんな事あるんですか?」
「……はい?」

看護師さんの声に

「こいつ、何言ってるんだ」

という感情は含まれているのが、分かった。

「だって私……デブだし……」
「ああ……はいはい、そう言うことですか」

この説明で、看護師さんは納得してくれた……らしい。
とりあえず、状況把握だけはしておかないと……。
今までのが夢オチだったとしたら……今はいつだ?
服装を見ると、夢と同じ服を着ているから……秋冬か?

「それで私は……何でここに……」

私が看護師さんに尋ねると、看護師さんはじっと、私の全身を観察してきた。

(動物園のパンダの気持ちはこんな感じなのだろうか……)

そんなバカな事を考えていると

「あんたが氷室先生を落とした女?」