樹さんの顔が、キスをする程近くなった。
数回程、キスをしているとは言え、正直樹さんの顔を至近距離で真っ正面から見るのは、慣れていない。

(ちっ……近い!!)

私は恥ずかしくなり、ぎゅっと目を瞑る。
樹さんの、爽やかな匂いがどんどん近づいてくる。

(何してるの!?樹さん……!?)

体が重なるのかと思って身構えていると、ガクンっとシートの背もたれが倒された。

「え?」

驚いて目を開けると、樹さんと目が合ってしまった。
怒っているのか、悲しんでいるのか、イマイチ感情が掴みきれない表情を樹さんは浮かべていた。

「あの……?」

私が起きあがろうとすると

「そのまま寝てて」

と、ピシャリと樹さんに言われる。
それから、樹さんはナビに目的地の入力を始めた。
表示された文字は、行くはずだった水族館の名前ではなかった。

「樹……さん?どこに行こうとしてるんですか?」

私が聞いても、樹さんは返事せずに運転を始めてしまった。
今度の運転は、全く揺れを感じなかったので、私は心地よくなり、眠ってしまった。