「ご両親は?」
「うち、2人とも忙しいから」
「そうなんだ」
「羽奏のところは?」

もう彼は、私のことを名前で呼ぶ。
彼に呼んでもらうというだけで、私の名前が急に特別なものに変わった気がした。

「うちも、親忙しい」
「じゃあ……」

彼は、私の手を握ってから

「少し、遅くなってもいい?」

と囁く。

「うん」

私は、その先に期待を込めて、頷く。

欲しい。
欲しい。
欲しくてたまらない。

「羽奏」

そうして、彼は私の鎧のように重い制服を、1枚1枚剥ぎ取っていく。
私も、彼のシャツを1枚、奪い取る。
清潔な石鹸の香りがした。

懐かしい香りだと、何故か思った。