私が会いたいと言った時
あなたは距離を置きたいと
言ったではないか。

私が助けを求めた時に
あなたは私に
気づいてくれなかったではないか。

そんな醜い言葉たちが
頭の中でぐるぐる渦巻いている。

私は、スマホの中に残している
数枚の彼の写真を
今は見られないでいる。

それを見ると
私の父だと名乗った
あの男の気持ち悪い顔が
頭に浮かんでしまうから。

せめて残すなら
動画にしておけばよかっただろうか。
そうすれば、声だけでも
彼を感じることが出来ただろうから。

1日1日が長いようで
あっという間に過ぎていく。
刻々と迫っているからだろう。
お腹の赤ちゃんをどうするか
それを決めることができる
タイムリミットが。

まだ、お腹は出ていない。
でも、もらったエコー写真が
確かに存在を訴えてくる。
私のお腹では
私以外の心臓が鼓動をしているのだと。

今ならまだ、この心臓の音を
止めることができる。
私の意志で。
だけど……。

ふと、顔をあげると
窓越しに夕焼け空が広がっていた。
今まで、大して気にしたことがなかったのに
どうしてか今日は
泣きたくなるくらい
綺麗だと思った。

それからすぐだった。
チャイムが鳴ったのは。
今、この家には誰もいない。
家政婦さんは
ちょうど外に買い出しに
出ていたから。

いつもの私なら
そのままいないふりをいただろう。
でも今日は
夕日に呼ばれるように立ち上がり
そのままインターホンの受話器を
取った。

「はい」
「羽奏?」

聞きたいと切望していた
彼の声だった。