近親相姦を反対する理由は
生まれてくる子供に
障害が出やすくなるから。
調べれば調べるほど
愛し合う事が問題ではなくて
愛し合った結果の子供が
理由だということを
何となくだけどわかってきた。
子供のために
社会がルールを作る。
そのルールに違反したら
倫理に反すると
たくさんの人が批判する。
だから、人々は
誰かが作った倫理に反することを
嫌がるのだろう。
倫理を反した結果
一気に目に見える敵が
増えてしまうのだから。
私は、ネットで同じような
悩みを相談してる人への
名も無い人たちの
好き勝手な言葉を見て
吐き気がした。
ああ。
私がしたことが知られると
私もこうやって
よく知らない人から
適当な理由で
全てを否定されるのだと
わかったから。
だけど、愛し合う気持ちを
社会が制限することなんて
できるのだろうか。
私は、学校や予備校という
高校3年生が普通に過ごす
社会に生きてきた。
その社会の中で
普通に彼と出会い
彼とセックスをした。
これのどこが
倫理的にアウトなのか。
ねえ。
神様。
私がこれからすることが
倫理に反するというのなら
私たちがこれまでされたことは
倫理に反していないのですか。
倫理とは、何ですか。
私はただ、愛している人の
子供を宿したから
産みたいだけ。
生物としての本能を
秩序を守りたいだけ。
だけど世の中は
そんな私の本能を
倫理という言葉で
否定をするのだ。
徹底的に。
ねえ。
神様。
その倫理は
何故守る必要があるの?
誰のため?
ねえ。
神様。
あなたが私を生むことを
許したその行為が
最も倫理に
反しているのでは
ないだろうか。
大人たちは自分に都合のいいルールを作る。
社会のためという名目で。
でも、じゃあ私の、生物としての父は、母は、どうだろう。
彼らが倫理を守っていると言えるのか。
私は彼らの倫理の先に生まれた子供。
そしてまた、刀馬くんもまた、同じだ。
社会は、誰のために倫理を作るのか。
倫理は、誰のために守られるのか。
私のことは、誰が守ってくれるのか。
倫理?
社会?
どちらも今、私に牙を剝こうとしているではないか。
本当は、私を守ってくれるのは
刀馬くんのはずだったのに……。
私は、本当に
倫理を守るべきなのですか?
この世界の人は、
決められた倫理を
守っているのですか?
……本当に?
そうしなければ
社会は回らないのですか?
社会を回さなくては
私は生きてはいけないんですか?
でも私は生きている。
生かされている。
そしてこの子も
このお腹の中で
生きている。
その、倫理を守るのは
守るべきなのは
……誰のため?
第2章 終了
「会いたい」
「どうして連絡をくれないの?」
彼からの、私を求めるメッセージが
届き続けている。
私はそれを見るたびに
まだ膨らんでもいないお腹に手をあてて
彼を想う。
でも、返事はできないでいた。
まだ私が何も知らなければ
きっと彼のメッセージを
素直に受け止め
会いに走っただろう。
だけど、私は知ってしまった。
私と彼は……
この国では愛し合うことが
認められない立場……らしいことを。
まだ、ちゃんとした検査をしていない。
だからまだ正式に彼と私が
きょうだいだとは限らない。
あの男が嘘をついている。
その可能性もあるのだから
嘘を証明することを
選べばいいのに、
逆に本当だと言われてしまったら
きっと私は立ち上がるどころか
意識を失い、目を覚ますことすら
難しくなると思ったから
私はまだ何も出来ずにいた。
それに……彼は
私が1番苦しい時に
私に寄り添ってはくれなかった。
そのことが
私の中でずっと引っかかっている。
私が会いたいと言った時
あなたは距離を置きたいと
言ったではないか。
私が助けを求めた時に
あなたは私に
気づいてくれなかったではないか。
そんな醜い言葉たちが
頭の中でぐるぐる渦巻いている。
私は、スマホの中に残している
数枚の彼の写真を
今は見られないでいる。
それを見ると
私の父だと名乗った
あの男の気持ち悪い顔が
頭に浮かんでしまうから。
せめて残すなら
動画にしておけばよかっただろうか。
そうすれば、声だけでも
彼を感じることが出来ただろうから。
1日1日が長いようで
あっという間に過ぎていく。
刻々と迫っているからだろう。
お腹の赤ちゃんをどうするか
それを決めることができる
タイムリミットが。
まだ、お腹は出ていない。
でも、もらったエコー写真が
確かに存在を訴えてくる。
私のお腹では
私以外の心臓が鼓動をしているのだと。
今ならまだ、この心臓の音を
止めることができる。
私の意志で。
だけど……。
ふと、顔をあげると
窓越しに夕焼け空が広がっていた。
今まで、大して気にしたことがなかったのに
どうしてか今日は
泣きたくなるくらい
綺麗だと思った。
それからすぐだった。
チャイムが鳴ったのは。
今、この家には誰もいない。
家政婦さんは
ちょうど外に買い出しに
出ていたから。
いつもの私なら
そのままいないふりをいただろう。
でも今日は
夕日に呼ばれるように立ち上がり
そのままインターホンの受話器を
取った。
「はい」
「羽奏?」
聞きたいと切望していた
彼の声だった。
「どうして、返事くれなかった?」
「……うん……」
私は、真冬でもないのに
少し厚手のストールを巻いて
外に出た。
まるでCMのような
綺麗な家で育った刀馬くんに
今の荒れ果てた
ゴミだらけの私の部屋を
見せたくなかったから。
見せるつもりはないが
お守りがわりに
エコー写真は
ポケットに忍ばせた。
刀馬くんは
制服姿で
オートロック前にいた。
……そうか。
もう学校始まってたんだ。
少し肌寒くなった
澄んだ空気も
時が進んだことを
教えてくれる。
刀馬くんは
私の手を
当たり前のように掴み、
私はされるがまま
彼に手を委ねた。
彼の手には
汗が滲んでいた。
緊張してくれていたのかな。
そんなことを思うだけで
やっぱり嬉しくなる。
でも、私は彼に掴まれてない
もう片方の手で
エコー写真が入った
ポケットを触りながら
覚悟を少しずつ
決め始めていた。
もう会えない。
別れよう?
その言葉達を
告げるための。
「入って」
私は、いつの間にか
彼の部屋の前に来ていた。
初めて結ばれた
大切な場所。
ここが、全ての始まりだった。
「どうしたの?」
「ごめんなさい……」
「え……?」
言わないと。
もう、愛し合うことはできないと。
だって、私とあなたは
きょうだいかもしれないのだから。
まだ、この子をどうするか
その結論は出せてないけれど……。
「もう、刀馬くんとは会えない」
「何言って……」
私がそう言うと
刀馬くんは私の肩をつかみ
揺さぶってきた。
「ねえ、羽奏?嘘だよな」
やめて。
そんなことしないで。
私の赤ちゃんが
驚いちゃうから。
「羽奏!何か言えよ!」
「やめて!!」
私は力一杯
刀馬くんを突き飛ばした。
赤ちゃんを守るために。
私より大きくて重い
彼の体は
あっという間に
床に転がった。
彼の頭は
ドアの近くにあった
彼の机の角に
ぶつかった。
「ご、ごめん……」
すごい音がした。
刀馬くんは
頭を手でおさえながら
本当に痛そうな顔を見せる。
私の心は
罪悪感でいっぱいになった。
「大丈夫……?」
私はネットで
色んな情報を見ているというのに
こう言うときの対処法を知らなくて
ただ彼に手を伸ばすことしか
できなかった。
そんな私の手を
彼が掴んだ。
その力は、とても強かった。
「痛いっ……!」
彼の手が
私の骨に食い込むのではと
錯覚するほどの
強い力だった。
それから刀馬くんは
よろよろと立ち上がったかと思うと
「きゃっ……!」
私をその場に押し倒した。
ベッドにすら
連れていってはくれなかった。
「だめだ」
刀馬くんのこんな顔
私は知らない。
まるでナイフのように
私を傷つけるような顔。
「俺から離れるなんて、許さない」
彼は、その言葉で
私の体を麻痺させる。
彼の側から
私を離さないために。
彼は私の足を
無理やり開いた。
まだ、私の体は
彼を受け入れる準備はできていない。
心も。
体も。
「好きだ、羽奏……!」
「んっ……!!」
前までの私であれば
彼の激しさに喜びすら
感じただろう。
でも、今の私は違う。
どうしよう。
赤ちゃんが怖がっちゃう。
すでに私は
母親になっていたのだ。
彼のための
女ではなく。