「羽奏……?」

全部が終わってから
彼は私にようやく
気がついてくれた。

「刀馬くん……良かった……」
「……え?」
「やっと、目が合った……」

さっきまでは
どんなに叫んでも
彼は私を見てくれなかった。
ただ、体だけを
擦れ合わせただけ。
ただ……彼が私を
貪り尽くしただけ。

「ご、ごめん俺……」
「……ううん……」

仕方がないのかも。
そう、思ってしまうくらいに
私は彼の境遇に
ほんの少し同情してしまった。

彼と彼の父親は
きっと仲がいいのだろう。
彼の父親は
きっと彼にとって
とてもいい人なのだろう。

私は、彼は急いで
私から離れようとしたのを
彼の手首を掴んで止めた。
彼は、私に顔を見せようとは
しなかったが
私は彼を今持ってる
すべての体力を使って
引き寄せた。
彼の全体重で
私の胸を潰した。

「私、大丈夫だから」

これが正しい言葉なのかは
分からないけれど
私は私にとっての正解を
言ってみた。
彼は、私の首筋に顔を埋めてから

「……羽奏……好きだ……」

と涙声で囁いた。
痛みと反比例した
優しくて悲しい声だった。