「人工……」

彼が呆然としている。
こんな彼の表情、初めて見た。

「そうよ。
今日は、人工授精に成功して
あなたが私のお腹に来てくれた日
なの」

彼の母親はそう言うと
自分のお腹を愛おしげに撫でていた。

「人工授精ってあの当時
すごくお金がかかるものだから。
もう最後にしようって
二人で決めてたの。
そしたら刀馬、あなたが宿ってくれた。
だから今日は、あなたがちゃんと
私のお腹に来てくれた、
あなたに感謝する日なのよ」

彼の母親の言葉に
彼の父親は目に涙を浮かべながら
頷いていた。

鬼の目にも涙、ならぬ
ゴリラの目にも涙。
もうすっかり
この顔にも慣れて
可愛いなと思っていたけれど
彼の中に遺伝子が
入ってないと言われると
納得しかない。

彼の中には
彼の父親のような
ゴリラ要素は
見当たらないから。

そんな、口が裂けても
言っちゃだめなことを
私は呑気に考えていた。

「それじゃあ……
俺の本当の父親は……
誰?」

彼の声が、震えていた。
彼の母親と父親は
顔を見合わせると

「この人よ」

と、彼の母親が
スマホ画面を見せてきた。
なるほど。
彼の容姿と近しいものがある
中世的な顔立ちの人だった。