すき焼きというものは
牛肉と玉ねぎを
しょうゆと砂糖で煮て
生卵をかけるだけの料理で
お弁当箱で食べるものだと
ずっと信じていた。

だから、ダイニングテーブルの上に
コンロが置かれたのも
その上に鍋が置かれたのも
そこで材料を煮ながら
食べるのも
全てが初めてのことだった。

「ほら、羽奏ちゃん、お肉も食べて」
「は、はい」

彼の母親が、菜箸でどんどん
食べられそうな肉を
取り皿にのせていく。

「羽奏ちゃん、春菊もお食べ」
「ありがとう……ございます……」

彼のゴリラ顔の父親も
ニコニコと話しかけてくれる。
嬉しいけれど
動揺の方が強い。

彼の家は
私が住んでいる家よりも
ずっと広くて
お金を持っていることが
分かる。

そんな人たちは
子供が付き合う相手に
いちゃもんをつけるものだと
クラスメイト達が話してるのを
聞いたこともあったし
漫画でもよく
そう言うシチュエーションを見た。

だから、私は

「お前なんかがうちの子と
付き合うなんて……」

と怒られる可能性ばかり
考えていたし
そう言われる方が
自然だと思っていたから。

「あの……どうして、
私にこんなに
親切にしてくれるんですか?」

つい、聞いてしまった。