「そういえば、予備校はどうしたの?」

このタイミングで
彼の母親に尋ねられた。

どうしよう。
怒られるかな。
私のせいだって
言われちゃうかな。

内心ビクビクしていたら
彼がにこって私に微笑みながら

「予備校は質問ちゃんとできないからね。
わからないところを、彼女に聞いてたんだ」

……そんなことはない。
予備校はちゃんと
質問に答えてくれるし
私が彼に教えられる勉強なんか
1つもないのだ。

それでも、彼は息を吐くように
私を守るための嘘をついてくれた。
表情を変えず。滑らかに。

「あらそう。ありがとう」

そんな風にお礼を言われてしまい
彼への想いが膨れ上がると同時に、
ますます居心地が悪くなってしまった。

その時。

「ただいまー」

今度は低い男性の声が聞こえた。
扉の向こうからやってきたのは
彼には全く似ていない
ゴリラのようなおじさんだった。