「それでね、この子は昔から
本を読んでもらうのが大好きで
いつもこの本読んでってせがむのよ」
「やめてくれ、母さん……」

ソファに腰掛けてからしばらくは
彼のお母さんによる
彼の昔話が始まった。

私と出会わなかった彼の過去は
今私が見ている彼からは
想像もつかないほど
可愛い男性だったらしい。

「そうなんですね」

と精一杯の作り笑いで
返してみたものの
自分の知らない彼がいるということに
寂しさが込み上げてきた。

そして、彼は私に対して
同じように思ってくれるのかと
急に不安になった。

彼のお母さんは
私の意図を知ってか知らずか

「そうだわ。アルバム見ない?」

と誘ってきた。
私は何故か、見たいとは思わなかった。
それでも、他に言うべき言葉も
見つからなかったので
私は、こくりと頷くだけしかできなかった

それから、彼の母親が抱えてきたのは
両手いっぱいのアルバム数冊。
見ているだけでとても重そうなのに
とても楽しそうに運んでいるのが
奇妙だった。