それから私は
彼に服を整えてもらってから
おそるおそる下に降りた。

今まで開けたことがなかった
扉の先にあったのは
ドラマでよく見る
綺麗なリビングだった。

「母さん、連れてきた」

彼はそう言いながら
私にソファに座るように言った。

「こんにちは」

すでにいた先客は
彼によく似た目元をしているけど
普通のおばさんだった。

だけど私にとっては
映画やドラマに出てくる
悪役と対峙するより
ずっと怖かった。

「こ、こんにちは」

先生と家政婦さん以外の大人に
挨拶するのも久しぶりだったからだろう。
声が裏返ってしまった。

どうしよう。
変に思われたかな。
嫌われるかな。

そう思っていると
彼のお母さんは

「そんなところに立ってないで
こちらにいらっしゃい」

と私を手招きしてくれた。
私はその一言を聞いただけで
涙がこぼれてしまった。