兄の子を妊娠しました。でも私以外、まだ知りません 〜禁断の林檎を残せるほど、私は大人じゃないから〜

「昨日、お父さんから怒られたんだけど、マジでうざーい」
「お母さんも、あのドラマ好きなんだよね〜。一緒に見てるんだ」

そんな風に、クラスメイト達が話しているのを聞いたことがあった。
そんな風に、私は考えたことは1度もなかった。

私にとって、家とは
1人でご飯を食べて、
1人でテレビを見て、
1人でお風呂に入って
1人で眠るだけの場所。

そういうものだと、思ってた。
でも、周りは違うみたいだった。

「ねえ、羽奏もそう思うでしょ?」

クラスメイトから聞かれた時、
私はどう答えていいか分からなかったから
適当に笑うだけだった。

クラスメイトたちには、当たり前の世界が
私にはない。

それが、さみしかったと知ったのは
彼と出会ってしまってから。
「今、何してる?」

部屋のベッドに潜っている時間
私には何もなかった。
でも、今は違う。
彼が、ベッドの中でも話してくれる。
彼の声が、布団の中に響いて、心地いい。

「ベッドにいるよ」
「俺もだよ」
「そうなんだ」

彼が今いるベッドは
さっきまで、私と彼が1つになった場所。
急にまた、体が熱くなった。

「羽奏、顔見たい」
「え、やだ」

もう、顔を洗って、まゆげもない。
こんな顔を私以外の人に見せるなんて
もう何年もなかったから。

「お願い、羽奏の顔見てから寝たい」
「…………どうしようかな…………」

こうして、彼が私の顔を見たいと言ってくれるのは
とっても嬉しい。
こんなに求めてもらえたことなんて、なかった。
だから……

「ちょっとだけだよ」

1度カメラの自撮り機能を使って
いい感じの角度を見つけてから

「じゃあ、ビデオ通話にするね」

と私から切り替えた。
急にスマホの中に現れた、
彼の顔を見た瞬間、
さっきのベッドの上の彼を思い出してしまった。
「……思い出すね」

彼も同じことを考えてたみたいだ。
それも、とても嬉しい。

「ねえ、刀馬くん」
「何?」
「……大好き……」
「俺も…………」

そうして、しばらく画面越しに見つめ合っていると
急に眠くなってしまった。

「眠い?」
「……うん……」
「いいよ、寝ちゃって」
「え、やだ。刀馬くんともっと話したい」
「羽奏が眠っちゃうまで、こうやって繋いでるから」
「ほんとに?」
「ほんと」
「……約束だよ」
「いいよ」

そうして、あとちょっと言葉のやりとりをした気がするが
何を話したかは覚えていない。

だけど、こんな風に刀馬くんと話すようになってから
私はぐっすりと、眠れるようになった。
明日また、彼に会えると思うと
次の日が来るのが楽しみになった。


ねえ、刀馬くん……知ってる?
あなたと愛し合ってから
私は、自分が未完成だったと知ったんだよ。

あなたがいないと
もう私は完璧な私じゃいられないの。


だから…………。


第1章 終了
今日も彼が、自分の種を私の中に出そうと動いている。
私の内側は、彼の種を受け入れるための準備を
しっかりと整えている。
彼の息遣いが、窓もない2畳ほどの空間に響く。
私は、自分のイヤらしい声が外に漏れないように
自分の手を噛んだ。

「羽奏」

彼は、1度動きを止めてから

「俺の肩、噛んでいいよ」

と、私をぎゅっと抱き寄せ、
向き合う形になってから
また腰を動かした。

激しい動きを必死に堪えるため
私は彼の首筋に噛み付いてしまった。
痛いのだろうか。
彼が苦しそうな声を出したけど
彼の動きが激しくなる分
私ももう余裕がなかった。
彼の動きに合わせて、私の息が漏れる。

「羽奏……可愛い……」

彼の、私を褒める言葉に
私の胎内が喜ぶ。

ぐちゅっと、みずみずしい音が
激しく鳴った途端、彼の温かな種が、私の胎内に放たれ
染みていった。
あの初めての日から
私たちは会うたびに
繋がれる場所を求めて
さまよった。

彼の部屋では、あの1度きり。
それからは、外でしていた。

1番寝心地が良かったのは
やっぱりラブホ。
けれど、2人のお小遣いでは
月に1〜2回が限界だ。

よく使っているのは
個室になっている漫画喫茶。
最初は勉強を一緒にしながら
どちらからともなくキスをして
それから彼が私の下着を脱がせる。

ほんの少しでもいいから
繋がりたい。
体温を感じたい。

そんな私と彼にとっては
漫画喫茶という場所は
何よりありがたい場所。

声を思いっきり出せないのが
辛い。
でもその分、月に1回と決めた
ラブホで、思いっきり声を出す。

好き。
愛している。

それを堂々と言い合いながら
腰をぶつけ合う時間は
人生生きてきた中で
1番幸せだと思える。
予備校の帰り道。
大体は21時過ぎ頃になる。
ほんの30分だけでも時間があれば
その後共に過ごしてから、家に帰る。
それが、これまでの私と彼の
恋人としての過ごし方。

ところが。
まもなく……夏がやってくる。
次々と、部活を引退した人たちが
予備校へと押し寄せている。

私はともかく
彼は、トップの大学を狙う人。
そしてきっと
私なんかには手が届かないところに
行ってしまう人。

そして彼の成績が下がったことを
予備校の掲示板で知ってしまった……。

だから、彼の勉強の邪魔にならないようにと
私は会う回数を減らすしかないと
思っていた。
だけど、私がそう言うと

「学校の後、予備校が始まる前まで一緒にいたい」

と彼が提案してくれた。
それから、私と彼の逢瀬の時間は、
放課後に変わった。
学校の帰り道から予備校に行くまでの間に
2人で待ち合わせをしてから
短い時間で繋がって、
それから予備校で
何事もなかったかのように
ほてる体で授業を受ける。
それが、新しい習慣になった。

もし、その習慣にしなければ
私は永遠に
私と彼の繋がりを知ることは
なかったのかもしれない。
それは、私と彼が
いつものように学校帰りに待ち合わせて
街中を歩いている時だった。
まだ今日は、手を繋ぐだけ。
キスすらできていなくて
体の奥底で物足りなさを感じていた。

予備校まで、まだ時間がある。
でも……繋がるには
ほんの少し時間が足りない。

だから私たちは
手を繋ぎながら
街をブラブラしながら
時間を潰していた。

「羽奏、どっか入ろうか?」
「うん」

私たちは、適当に近くにあった
ファーストフード店に入ろうとした。
でも、私はその入口を見てすぐに

「ごめん、ここじゃない方が……」

と、彼に言ってしまった。

「どうしたの?」

彼は心配して聞いてくれたが
なんて説明していいのかわからなかった。

まさか、いるはずのない自分の母親がそこにいて
知らない男と親しげに話をしているのを見て
怖くなった……なんて。
私にとって、母親が存在しているのは
家と、SNSの世界だけ。

そんな母親は
文字だけのSNSでは
ほんの少し有名らしい。

母親が書く文字にいるのは
母親と、母親の娘という存在。
そしてその娘の存在は
決して私ではない。

母親が書く娘というのは
成績がとびきり良くて
模試で全国1位をとりまくっているらしい。
それにスポーツも万能で
この間はテニスの大会に優勝したらしい。
絵画も得意で
賞をとっているらしい。

そんな女の子が、
母親の娘らしい。
私の知らない娘が
母親には他にいるらしい。

私の成績は普通。
スポーツも、徒競走は平均タイム。
球技はバレーボールがそこそこできるくらい。
絵は、5段階評価中の3。

そんな娘がいることを
母親は一切表には出さない。

それが、私と母親の事実。
母親が外に出ることも
私は知らなかった。

そして、あんな風に男の前で
笑えることも……。私にとって、母親が存在しているのは
家と、SNSの世界だけ。

そんな母親は
文字だけのSNSでは
ほんの少し有名らしい。

母親が書く文字にいるのは
母親と、母親の娘という存在。
そしてその娘の存在は
決して私ではない。

母親が書く娘というのは
成績がとびきり良くて
模試で全国1位をとりまくっているらしい。
それにスポーツも万能で
この間はテニスの大会に優勝したらしい。
絵画も得意で
賞をとっているらしい。

そんな女の子が、
母親の娘らしい。
私の知らない娘が
母親には他にいるらしい。

私の成績は普通。
スポーツも、徒競走は平均タイム。
球技はバレーボールがそこそこできるくらい。
絵は、5段階評価中の3。

そんな娘がいることを
母親は一切表には出さない。

それが、私と母親の事実。
母親が外に出ることも
私は知らなかった。

そして、あんな風に男の前で
笑えることも……。
「どうした?羽奏?」
「え?」
「具合……悪くなった?顔色、すごく悪いから」

何て……言えばいいんだろう。

気持ち悪い。
吐きそう。

でもそれは、風邪とかじゃない。
だって、さっきまで
すっごく幸せな気持ちだったから。

「ごめん、刀馬くん……先に行ってて」
「なんで?」
「ちょっと、用事思い出しちゃって」

そして私は、逃げ出してしまった。
刀馬くんから。
そして母親から。

だって、説明できる気がしなかった。
私がどんな気持ちで今立っているかなんて。
私だって、よくわかってないから。

ただ、刀馬くんに……
今の私を見て欲しくないと
思ってしまった……。

それなのに。

「待って羽奏」

彼は、私を追いかけてきた。

「放っておけないよ」

私の手を掴んでくれた。

「刀馬くん……」

私は、街中なのに
彼に抱きついて泣いてしまった。
なんで涙が出るのか
その答えを知るのは
もう少し後のこと。