「待って」

手を掴まれる。

「ほら、お父さん心配してるんでしょ。私も、すぐ近くだから」

本当はもっと一緒にいたいけど
これ以上いると、もっと離れがたくなる。

でも、そのまま引っ張られた。

「どっち?」
「え?」
「家」
「いいよ、近いから!」
「だーめ」
「どうして!」
「もう少しだけ、一緒にいたいから」

そんなの、私だって……。
唇だけ、肌だけじゃ、足りない。
手を伸ばせばすぐに触れられる距離。
でも、可能なら、体温を交換し合う程の距離で
一緒にいたい。

もう少しだけ。

彼は、普段はもっと早く歩く。
私もだ。
だけど、お互い相談したわけじゃないのに
ゆっくり、ゆっくり一歩を噛み締める。

ようやく私の家の前に到着した時は、
すでに5分経過していた。
普通なら、たった2分で到着するような距離。