「今思い出しても、あの時の羽奏は、すっごく面白かった」
「待って!その時の記憶は忘れて!」
「どうして?」
「恥ずかしすぎる!」
「でも、俺はそれで羽奏のことが気になり始めたんだよ」
「ええっ!?」

し、知らなかった……。

「何度もコンビニですれ違ったの、知らない?」
「知らない」
「だろうね。君はいつも悩んでいたからね」

…………コンビニで悩まない人がいたら、コツを教えて欲しい。

「でも、いつも同じ時間にコンビニに君が行ってくれたおかげで、俺は君を見に行くことができたんだけどね」

ずっ……ずるい……。
私も……パンじゃなくて刀馬くんを見たかったよ……!

「本当は、受験が終わるまでは眺めるだけにするつもりだったんだ」
「眺める……だけ?」
「そう。俺、あまりメンタル強い方じゃないからさ……君に近づいて、嫌われるくらいなら、そっと見てるだけの方がいいかなって、思ってたんだ。でも……」

ため息混じりにそう言うと、彼は私の手を、強く握りしめてきた。

「ダチはダチで、どうやったら君に近づけるか……とか俺に真剣に聞いてくるし……」
「でも、私に話しかけてくる男子なんていなかったよ」

だから、彼が言うダチが、一体誰のことかは分からなかった。

「そりゃそうだよ」
「え?」
「俺が、止めてたから」