私は刀馬くんにつけてもらった
指輪をした左手で
お腹に手を当てる。
今にも出てきそうなほど
お腹は大きくなった。

ねえ、私の赤ちゃん。
ママ、もう忘れて良いかな。
幸せになってもいいかな。
秘密を打ち明けるんじゃなくて
忘れても、いいかな。
パパとママとあなたの3人で
私たちが本当に欲しかった
3人とも血も心もつながった
本当の家族に……なってもいいかな?

私が心の中で尋ねると
赤ちゃんがとんとんと
お腹を蹴り返した。

いいよって
思っていいだろうか。
赤ちゃんも同じ気持ちだと。

忘れればいい。
なかったことにすればいい。
それで全てが丸く収まる。
幸せになれる。

そう、思ってくれていると。

「ねえ、刀馬くん」
「どうした、羽奏」
「私たち……幸せになれるかな」
「うん。幸せに、なるんだよ」

この瞬間のために
私は生きていたのかと
思いたかった。
勘違いでも構わなかった。
この瞬間
世界で1番幸せなのは
私たちだと。














でもね、刀馬くん。
幸せな時間は
簡単に崩れ去ることを
私は知っているんだよ。

そして。
そういう
当たって欲しくない
予感ほど
何故か
当たってしまうのだということも
私はもう、経験していた。








だからこれはね。
私は想定内でなくては
いけない出来事だったと思う。



もう、遅いけど。