今日が、最後と決めていた。
別れを告げなくてはいけない。
私と彼は決して、結ばれてはいけなかった。
神が、それを許さないと、私は知ってしまった。
「やめて……!」
「だめだ、俺から離れるなんて、許さない」
彼はいつものように私の足を開き、彼の分身を入れる。
「あっ……!」
「好きだ、羽奏……!」
彼に与えられる絶頂をこらえながら、私は時を待つしかなかった。
彼が唯一油断をする時間を。
全てを私の中に吐き出した、その後を……。
全てが終わったあと、彼は大きなため息をつく。
それからすぐ、私をぎゅって抱きしめてくれる。
「すっごく可愛かったよ、羽奏」
って、耳元で囁いてくれる。
私はそうされるのが、大好き。
このまま、死んじゃってもいいって……思うくらい。
「ねえ、刀馬くん」
「何?」
いつもの私なら、言葉は決まってる。
「大好きだよ」
だけど、今日は違う。
言わないといけない。
「私たち、付き合っちゃいけなかったんだよ」
って。
だって、私たちがエッチするのは……
許されないことだと、知ってしまったから。
刀馬くんと私が付き合ったのは
ごくごく普通のきっかけ。
同じ塾に通う、高校生同士。
本当に、びっくりするくらい普通。
ただ、志望校は全く違った。
刀馬くんは、一流の大学狙いで、毎日遅くまで勉強していたらしい。
一方で私は、とくにやりたいこともなかったから、ゆる〜く通える大学に適当に入ればいいのかな……くらいにしか思ってなかった。
そんな私たちだ。
きっかけがなければ、決して交わることはなかったかもしれない。
むしろ、交わらない方が、良かったのかもしれない。
だけど、私たちは出会ってしまったのだ。
運命が、私たちをそうさせたのだろうと、刀馬くんは言ってくれたし、私も……そう思えた。
運命という言葉を信じたくなるくらい、私たちはお互いを必要としたのだ。
最初に刀馬くんと私が出会ったのは、
大学受験のために通い始めた予備校の自習室。
偶然、隣同士になった。
すっごく、綺麗な男の子だなと思った。
真剣に教科書を見ている眼差しも。
ノートに書いている文字も。
全てが、綺麗すぎて、こんな人は私の周りにはいないなって、たった1日で思ってしまった。
一目惚れなんて、おとぎ話だと思っていた。
けれど、実際にあることを、この日知ってしまった。
私は人生で初めて、ノートと教科書に、本気で嫉妬した。
こんな風に見つめられたら、どんなに良いだろうかと思ったから。
まさかこの時、刀馬くんも同じ事を考えてくれたなんて……。
知った時は、本気で死んでもいいって、思った。
「一緒に帰らない?」
刀馬くんが、帰り道誘ってくれたのは、私たちが出会ってから1週間後のこと。
その間、刀馬くんと私が会えたのは、たったの2日だけ。
別に連絡先を交換したわけでもない。
約束をしたわけでもない。
でも、会えてしまった。
私が行く先に、彼がいてくれた。
それだけだったとしても、私たちの距離が近づくには十分すぎる。
その日の帰り道。
私たちは自然に手を繋いだ。
そうして誰もいない公園にいつの間にか立っていた。
言わなくてもわかってしまったのだ。
お互いが何を求めているのか。
ベンチに座り、お互いを見つめてから、初めてのキスをした。
街灯の真っ白い灯に照らされた彼の顔は、やっぱりとても綺麗だった。
「好き」
自然に言えた。
「うん」
彼は、恥ずかしそうに頷いてから、またキスをしてくれた。
何度も。
何度も。
何度も。
こんなに気持ちいいことがあるのかと、私は彼に教えてもらった。