俺は、琴莉に声をかけたかった。


「今日の放課後、一緒に帰らないか?」


と。

たった、これだけなんだ。

これだけすら、今までは言えなかったんだ。

今は、あの日みたいに手をつなげなくてもいい。

ただ、側に立ちたい。

横で歩きたい。

琴莉の声を、間近で聞きたい。

琴莉に、俺の問いかけに応えてほしい。

まずは、これだけでいいんだ。

まだ、笑いかけてくれなくてもいい。

あの日のように、俺にくっついてくれなくてもいい。

ただ、今まで遠く離れていたのだから、まずは少しだけでも距離を縮めたい。

話をするのが当たり前の関係性に戻りたい。



今、俺が欲しいものはこれだけなんだ。

やっと、そのための一歩は踏み出せたと、思ったのに。

やり直すためのリセットができたと、そう思ったのに……。


俺は、何も自分からは動かない内に、中学時代の状況に逆戻りさせられていた。




この時はまだ、それが榎本のせいだとは気づけていなかった。