「どういう意味だ」

「どうもしないよ。私はね。ただ、どうなっちゃうんだろうなーって考えただけ」


そう言ってから、榎本は俺の耳元でこう囁いてきた。


「私は何もしないけど、他の女子は何するか分かんないよね。……その意味が分かんないほど、ナオくんはお鈍な人じゃないでしょう?」


それから榎本は俺の裾を引っ張った。


「何するんだよ」

「いいから、私の言うことを聞いておきなよ」


そう言ってから、ちらと榎本は横を見る。

それに釣られて、俺も榎本が視線を向けた方向を見ると、複数の女子がこっちをジロジロ見ていた。

お互い耳打ちし合っているのが、とても気になった。


「ね。ここにいると、あの子たちに琴莉ちゃん、目つけられちゃうかも」


そう言ってくる榎本に、俺は疑問をぶつけてみた。


「お前はどうなんだよ」

「え?」

「……お前の方が……やばかったりするんじゃねえの」

「あー私は平気。そこら辺のバカと一緒にしないで」


最後の方は、よく聞き取れなかった。


「え?今、何て……?」


聞き返すと、ただにっこりと榎本は笑ってから


「私のことは良いじゃん。それより、あの子たちナオくんと話したがってるみたいだから、行こう」


と、今度は俺の手を無理やり掴んで引っ張った。


「ほら、あなた達もナオくんと話したいんでしょ、こっちで一緒に話そうよ」


榎本は俺たちを見ていた女子にも声をかけた。

そうして、榎本は俺とその女子達をエントランスに留めた。


「ほら、ここでお話ししよう。ね」


そんな気分じゃない。

そう言おうと思っても、榎本は俺の手を離してはくれないし、女子達も


「松井くん……お話ししてくれるの?」

「好きな食べ物って、何ですか?」


と質問をし始めてくる。

仕方がない。

笑っていればどうにか終わるだろう。

どんどん集まり始めた女子たちの会話を適当に受け流している時に、俺は目が合ってしまった。

放送室から出てきたばかりの琴莉と。

琴莉が俺に向ける眼差しに、軽蔑が含まれていた。