「あんな笑顔……久しぶりに見た……」


俺と再会した時、あいつはどんな表情をしていただろう。

戸惑った表情をしたのだけは分かる。

その後、琴莉は俯いてしまったし、何より俺も、久しぶりに何を話していいか分からなくて視線を合わせることができなかった。

それでも分かる。

少なくともあの時の琴莉と今の琴莉は、別人かと問いかけたくなるくらい違う。

でも、今俺が見ている琴莉もまた、琴莉そのものであることも知っている。

俺がずっと守りたいと思っていた、幼い頃の琴莉の笑顔そのものなのだから。


琴莉の元に男が近づき、何か話しかけていた。

その距離が、俺よりも近くて、胸の辺りでムカムカした。


今すぐ中に入って引き剥がしてしまいたい。

職員室と間違えて入った、という言い訳でどうにかできないだろうか……?


男は、琴莉の頭に手を伸ばそうとしている。

ダメだ。

それ以上琴莉に近づくな。

我慢できなくて、扉に手をかけた時だった。



「ナオくん?こんなところで何してるの?」


榎本が背後から声かけてきた。

どうしてこいつがこんなところにいたのか。

冷静に考えればすぐに変に思えたはずなのに。

この時の俺はそんなことすら考えつかないほど、冷静さを失っていた。