覗き込むと、琴莉がパソコンを真剣な表情で見つめながら操作をしているのが見えた。

顔を歪ませている時は、何かを考えている時だろうか。

しばらくワサビを口に含んだような顔が続いたかと思えば、ぱっと花が咲いたような笑顔に戻り、パソコンを操作する。

琴莉の動きに連動して、スピーカーからながれる音楽が変わる。

その音楽は、読まれている原稿の内容を引き立てるようなものばかり。

琴莉が、このBGMを選んでいたというのが、この事実から推測できた。


そして、放送が終わった。

琴莉は、ふうっと長いため息をつくような表情をしながら、背もたれに寄りかかりながら天井を見ている。


……俺は、琴莉に聞いてみたかった。

どうして、あの思い出の曲を選んだの?

偶然だとしても、あの曲が流れてくれなければ、今俺はここにはいなかった。

知りたい。

琴莉と話がしたい。

そう思って、扉に手をかけようとした時だった。

廊下で1度だけすれ違ったことがある男が、琴莉に近づいて何かを話しかけていた。

すぐに琴莉は俺が見える窓に背を向けてしまったが、一瞬だけ見えた。


かつて俺が笑わせていた時と同じ、明るい笑顔を琴莉が浮かべていたのを。