結局、その日俺は琴莉に会いに行くことは出来なかった。

放課後になってすぐ、たくさんの女子たちに囲まれてしまったから。


「ねえ、松井くん?この後暇?」

「私たち、カラオケ行くんだけど……一緒に行かない?」

「ごめん、俺」


用事があるからと断ろうとした。

今度こそ優先順位を間違えたくなかったから。

でも


「え、良いじゃん。行こうよ。ね」


と榎本が俺の言葉を無理やり遮って、女子たちと俺の約束をさっさと取り付けてしまった。


「おい、何で勝手に話進めるんだよ」


俺は、すぐに榎本を廊下に連れ出し、意図を聞いた。


「だって、今日はこのクラスでの初日でしょ」

「だから何だよ」

「分からないの?」


そう言うと、榎本は俺の耳元でこう囁く。



「初日が肝心って言うでしょ。もしあの子たちが、ナオくんが自分達より下級生を優先したって言ったら……どうすると思う?」


含みがある言い回しだった。

でも俺にはその言葉の奥深くに眠る意味は伝わった。



ここでの振る舞いを気をつけなければ、琴莉がまたターゲットにされる。

もしまた、俺のせいで琴莉が辛い目に遭ったとしたら……?

今度こそ、琴莉はもう2度と、俺には近づいてくれないかもしれない。



「大丈夫だよ、ナオくん」

「え?」

「私の言う通りにしたら、琴莉ちゃんと再会できたでしょ?今度も、私の言う通りに動けば大丈夫だからさ、ね」



確かに、榎本の助言がなければ、俺は琴莉とまた同じ学校に通うことは出来なかった。

だから……。




「分かった。今日は、あいつらと行けばいいんだな」


俺がそういうと、榎本は満足げに頷きながら


「そうそう。琴莉ちゃんとはまた別の機会に一緒に行けば良いんだよ」


と言いながら、俺の手を無理やり引っ張って教室に連れ戻した。


そうだよな。

まだこれから時間を作っていけばいい。

そのための準備は確かに必要だ。

俺は、琴莉と会いたい気持ちをグッと抑え、榎本の言う通り、クラスの女子たちとの親交に時間を使った。

これも、琴莉との未来のための投資だと思えば、1日くらいならと耐えられた。


けれど、事はそう簡単ではなかった。