最初の違和感は、琴莉の入学式直後。

俺も、4月からの編入組。

これは、琴莉との確固たる共通点だろう。

同じタイミングで、新しい場所で生活を始める。

この状況こそ、子供の頃の俺が喉から手が出るほど欲しかったものだ。


「周囲の探検をしたいけど、一緒に行こう」


子供っぽい理由づけかもしれないが、これこそ俺がかつて望んだ琴莉との関係性だった。

一緒に新しいものを見て、感じて、感想を言い合って、笑い合う。

俺が小学校に入る前には、何の意識をすることもできていた、当たり前だったはず。

失ってしまったことで、そういう時間がいかに尊いことかを実感していた。


「よし……」


俺は、入学式が終わった頃、琴莉の教室に向かおうとした。

1つくらい手土産がある方が、会話のきっかけになるだろうと考えて買った、アメリカ土産の自由の女神マグネットも、しっかりポケットに入れた。


1年生の教室があるエリアに到着した、まさにその時


「ナオくん、琴莉ちゃんに会いにいくの?」


と、榎本が声をかけてきた。

俺にとって、その事実は当たり前すぎて、普通に


「そうだけど」


と答えてしまったが、よくよく考えれば気づくべきだった。

俺が知っている限り、榎本には琴莉との接点はなかったはずだったのに。

何故琴莉という名前の音を知っているのか。