俺が座ったのを確認してから、琴莉の父親も横に座った。

俺との間に、一人分は座れる距離だったから、それこそが琴莉の父親の本心であることに、俺は気づいた。

それから、琴莉の父親はしばらく何も話さず、膝の上に手を置いていた。

俺は、その手を見ながら、次の言葉を待つしかできない。

たったそれだけの時間が、ひどく長いように感じた。



琴莉の父親がふっと息を漏らす。

その音が聞こえたのが次の合図。


「波音君。君に聞きたいことがある」


そう言うと、琴莉の父親は俺に2枚の紙を手渡してきた。

どちらも、ボロボロになっていて、赤黒い血で染まっていた。

誰の血であるかは、明白だった。


その紙を受け取る俺の手は、まるで痺れたかのように細かく震えた。


「これを、君はどう思う?」


琴莉の父親は、俺にその紙の中身を読むことを強制する質問を投げかけてきた。

一体何が書いてあるのか、と考えることすら許されない。

そう思った俺は、怖さを抱えながら、その紙に書かれている文字を確認した。




そこには、俺がずっと欲しかった言葉もあった。

でも、同時に受け入れ難い言葉もあった。

できれば、もっと早く、こんな形ではなく受け止めたかった言葉達。