どうしよう。

俺が理由だと言われても本当に心当たりがない。

すみませんと、謝るべきだと分かっていても、何に対して謝ればいいのか分からない。


「なんとか言いなさいよ!そもそも!あんたのせいで……!!」


琴莉の母親が、俺の顔を叩こうとしたその時


「やめないか」


後ろから、琴莉の父親が現れた。

顔は小学生の時に見たままだが、こちらも年月が経った事を増えた白髪が教えてくれた。

一見すると、とても優しそうな男の人。

近所でも、評判の良いお父さんだということは、自分の母親が何気なく教えてくれた。

でも、俺はこの人が何となく怖かった。

将来自分が


「琴莉をください」


という人になるのか……と考える度に、断られる想像しかできていなかったから、というのも、あるのかもしれない。

そんな事を、今はとても口に出せるような雰囲気では、もちろんないが。



「波音君、妻がすまないね」

「どうしてあなたが謝るのよ!!」

「落ち着け。まずはちゃんと本人に確認を取るのが筋だろう」

「どうしてあなたはそんなに冷静なのよ!あの子のことが心配じゃないの!冷血漢!!!」

「琴莉のことが心配でたまらないことと、彼を無条件に責めることは切り分けて考えなければダメだ」



琴莉の父親はそう言うと、ペットボトルを琴莉の母親に渡してから


「手術室前で待っていなさい。琴莉が寂しがるだろう」

「でも……」

「いいから。待っていなさい」


琴莉の母親は、キッと俺を睨みつけると、足早に去っていった。

それからすぐだった。


「波音君、そこに座りなさい」


俺に対する口調が、急に変わった。

それで分かった。

ああ、この人も、俺に何かしらの怒りを抱えているのだと。

それを、覆い隠す仮面をつけていただけなのだと。