たった一人のアイツと離れた代わりに、たくさんの女の子の友達ができた。


ブスと言われなくなった。

死ねと言われなくなった。


その代わり、一緒に帰ろうと言われるようになった。

日曜日に遊びに行こうと誘われるようになった。

かっこいいアイドルの話で盛り上がることができた。

堂々と、お気に入りのキャラクターやアニメについて話すことができた。




そうしているうちに、私はニワトリと誰からも呼ばれなくなる。

アイツしか呼ばなかった、「ことちゃん」というあだ名をみんなが使うようになった。

あんなに嫌いだった学校が、とても好きになった。

私の世界のほとんどに、アイツがいない。

たったそれだけのおかげで私は、学校で笑えるようになった。

それが、私にとって幸せだと思っていた。



だけど、アイツが中学生になり、私がまだ小6だった頃。

アイツは、私のクラスでも有名だったから、その噂がすぐに広まった。



松井波音は、次から次へと女の子を取っ替え引っ替えしている。

松井波音は、美人の彼女とキスをしていた。


その頃人気だったアイドルたちの話題より、そのことでクラス中の女の子達が盛り上がっていた。


ガチ恋勢は、嘆き悲しむ。

ファン勢は、カップリング論争で盛り上がる。

男子達が当時、そんな女子達にドン引きしていたのは記憶に新しい。

そして私は……まだアイツの事を忘れられないでいたことに気付かされた。

私は、となりの家が見えないようにカーテンを閉めたまま、部屋に閉じこもるようになった。

アイツが、私以外の女の子の横で笑っているのなんて見たくなかったから。